ひと戦争が終わったその夜。
経営者であるエンが厨房を覗くと何故か人の気配が無かった。
不思議に思いよくよく周りを見渡してみれば意外な事に厨房はあらかた片付けられており清潔にされている。所々に転がる毛布の掛けられた職人たちの屍を覗けばの話だが。
「グレミオ。グレミオ!」
「う、ううううん。」
驚かさないように声を掛けその肩をゆする。
何度かそれを繰り返すとやっとグレミオは目を覚ました。
「あ。ぼっひゃん〜〜…。」
鉄板張りの作業台から上げられたグレミオの顔の目の下にはくっきりと大きな寝不足を示すクマが二つ。心無しか頬もこけ、その表情はうつろでちょっと怖い。更に足元には無数の栄養剤の空き瓶が転がっていた。無造作に転がるその一つを拾い上げる。
(グレミオ、こんなものまで飲んだのか。あんなに嫌ってたのに。)
いつもなら「こんなもの飲むくらいなら食事で栄養を摂取するべきなんです!」と頑固にその使用を拒む彼なのだったが。この厨房の責任者たるグレミオは相当無理をして突貫作業に挑み、なんとか今日の最後の注文を仕上げ、他のアシスタント達を帰し、半ば反射的に片づけまでこなした所で力尽き眠り込んでしまったのだろう。
「グレミオ。大丈夫?こんな所で寝てたら身体が休まらないよ。ちゃんと家に帰って。」
「ぼっひゃん〜〜なんだかすごく身体が軽いんですよう〜まだだいひょうふです〜〜♪」
-----今だかつて栄養剤を知らなかった彼の身体にはその効果は多大過ぎたようではあるが。
「お陰でなんとか一山は越える事が出来たよ。本当に良かった。指定日通りに仕上がったケーキをお客は皆
喜んで持って帰った。美味しいケーキでクリスマスを迎えて、今頃は楽しい夢でも見てるだろう。
本当にグレミオが頑張ったお陰だよ。」
「そんな事ないです〜。ジュッポさん達にも頑張って頂いたお陰です。結局あの短期間ですべてやって頂いた
んですから。」
「ああ、分ってる。勿論彼等には労働に見合った報酬を約束するよ。感謝の気持ちの分も込めて。」
結局部品の調達から組み立て、調整、仕上げまで通常1週間以上は掛かる所を3人掛かりとは言え正味3日でこなしたのだ。しかもその間に旧式の機械の修理までこなして。新品の機械程最初に小さなトラブルが頻発する。その度に呼び出された彼等はようやく仕事から解放され、今頃きっと自宅で倒れている事だろう。
「だから、休んでくれ。」
「でも、明日の分の仕込みが…。」
「仕込みはアイリーンとマリーが代わってくれるそうだから。今日は帰って休むんだ。今クレオが車出して
来るから。」
「そんな…あの方々だって疲れているのは同じでしょうに。私だけがそんな事言っていられません。」
「聞け、グレミオ。」
「はい?」
「明日もまだ店はやってるんだ。明日もかなり忙しくなりそうだと分っているのにグレミオがそんなでどう
する?うちの店はグレミオがいてくれないと困るんだ。だから休める時に休んでおく事。良いね?!」
冗談で無く、こんな状態で放置しておけば間違い無く明日の彼は使い物にならない。
だから最後のは一応疑問の「ね?」だが本当の意味は疑問ではなく確認の「ね?」だ。
「……分かりました。では、お言葉に甘えて休ませてもらいましょうか。」
「うん……。」
「どうしました??」
「いや、本当に良く間に合ったものだなあと思って。…もしお客の指定日に間に合わないなんて事しでかし
でもしたら、僕は即刻この店を閉めるつもりだった。」
「ぼっちゃん…それじゃ…」
「………。」
「そんな事をしたら…坊っちゃんの目的が…果たせ無くなってしまうんじゃないんですか??」
「………。」
まるでその質問が聞こえなかったかのごとく、エンは自嘲ぎみに目を細めた。以前何度かやはり同じ質問をした時も肯定も否定もせず、曖昧に微笑んだだけ。
だがグレミオには分っている。多分ある目的の為だけに彼がこの店を開いた事も、その目的が彼にとってどのくらい大切なものであるのかも。
だから、彼の力になろうと決めた。
「だから……ありがとう。グレミオ。」
「いいえ、どういたしまして。」
久しぶりに見る和らいだエンの表情に思わず心が満たされる。
これだから、頑張れる。
これがあるからどんな辛い事も頑張れるのだ。
「さて!では最後の一仕事を片付けるとしますか!ちょっとだけ待ってて下さいね。」
主人に笑顔を返して、元気百倍のグレミオは眠りこむ職人達を一時眠りから覚まさせるべく立ち上がった。
全ての人間を送り出し、グレミオが帰り支度を終えるのを待って店に鍵を掛ける。
連れ立って冷気の中に出るとそこには冷たい贈り物が2人を待ち受けていた。
「雪……??」
「わあ…雪です!雪ですよ、坊っちゃん!年内に降るなんて珍しいです。」
ちらりちらりと絶える事なく天から落ちて来る白い光の粒。降って来ると言うよりまさに落ちて来ると言う形容がふさわしいその粉はふんわりとまるでダンスでも踊るように落ちて来る。
「天気予報ではそんな予報出て無かったんですがねえ。…道理で冷え込むと思いましたよ。」
「………。」
雪が降る。
それだけで普段見慣れた筈の夜景がこんなにも冷たく感じる。
夜の闇と正反対の白色をまとった雪があるというだけで街のイルミネーションが妙に暖かみを増すような気がしてしまう。そして自身の吐き出した吐息ですらこんなにも暖かさを感じてしまうのは、妙に人恋しくなってしまうのは、きっと雪の魔法。
「ホワイトクリスマスにはちょっとだけ遅かったですね。」
「……………。」
「やっぱり、綺麗ですねえ。」
「…………。」
「……きっと、どこかで見ていると思いますよ。彼も。」
「…………!!」
「グレミオ………。」
早く会えると良いですね。
驚いたようにこちらを振り返ったエンの、その表情がみるみる綻んでいく。
口には出さなかったが、グレミオの伝えたかった事は十分伝わったようだ。
「-------------ああ。」
本当に。
車のライトが2人を包む。
満足げに微笑んだエンとグレミオは軽く2回鳴らされたクレオのクラクションによる合図に笑顔で応え、車へと足を向けた。
| 2001.12.25 |
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-----サイト初のクリスマスを祝って^^最初「3」のバレリア達の下りが頭にぽんっと降りて来まして。その後一晩で一気に書き上げてしまいました。楽しかったです。どうもこの時はメルヘンの神様が降りて来ていたらしいです。でないとこんなにグレミオ書かない(笑)一応「sweety battle」で2キャラの方を多く取り上げたんで今度は1の方を書きたかったんです。この設定だと書くのが早いような気がする。ちなみに伏線張りまくりですがあまり気にしないように(笑)いつまで続けるかも分かりませんし♪
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