「大した怪我じゃ無いのは喜ばしい事なんだけどなあ…」
「……」
「それにしてはここんとこ薬草の消費が早くていけねえや」
「………」
エースはばっさばっさとはねる髪をかき回してぼやいた。
目の前には頬に軽い擦過傷を負ったジャックの姿がある。
良く見れば水色のジャケットのあちこちにも、裂かれて出来たと思われる傷がある。
身体の傷自体はエースの言った通り軽いもので、薬草を使って手当てすれば治って
しまう程度のものばかり。
と言っても薬草だってタダじゃない。
問題児ばかりを抱えていつだって財布が苦しい第12小隊の会計としては見過ごせない
問題だったりする訳で。
渡す先からぱっぱと使い切られてはたまらない。
「すまない」
「大体なあ、お前今までそんなに怪我してなかっただろ。それがどうよ最近と来たら」
そりゃあねえ、と苦笑するクイーン。
「そりゃバディが変わったからじゃろうな」
ジョーカーの指摘する通り最近の12小隊の隊列配置が変わった。
現在はゲドにクイーン、エースにジョーカー、ジャックにアイラ、というバディに
なった。
それぞれゲドにエースにジャックの3人が前衛担当である。
「背後にアイラがいたら、ねえ?」
くっくっとクイーンは声を震わせる。
「…そうなのか?」
エースの問いに、声を出す代わりにジャックはこくり、とうなずいてみせた。
「だからってな、お前さんが嬢ちゃんの分の攻撃を引き受けなくたって良い
だろーが…」
「…かもしれないから」
「ああん?」
「俺が避けたら…アイラに…当たるかも知れないから」
「避けたら、当たるかもしれないいいいいい?!!!」
はああああ、とエースは盛大な溜め息をついて頭を抱える。
「アイラだってそんなに鈍くはねえだろ…」
「それってどういう事?」
声のする方を振り返ると、そこには休む為一足先に2階へ上がったはずのアイラが
険しい顔をして立っていた。
普段はくるくると表情が変わるその顔は固く凍り付いたように冷たい。
「アイラ、お前なんで…?」
「喉が乾いたから起きて来た」
「あ、そう」
エースに素っ気無く言い放ったアイラは険しい顔はそのままに、ずかずかとジャックに近付いていく。
いつもとは違う雰囲気のアイラにジャックは目を瞬かせる。
「アイラ…」
「わたしが敵の攻撃を避ける事ができないと思ってるんだったら、戦士に対する
侮辱だぞ!」
アイラは戦士として見くびられる事を大変に嫌う。
なので今回ジャックは大変な怒りを買う事になっているわけだ。
怒鳴られた方のジャックは弁解をするでもなく、慌てるでもなくじっとアイラを
見ている。
アイラもジャックを睨み続けている。
不穏な空気に周りで事の成りゆきを見守っていたクイーン、ジョーカー、エースの方が
眉を潜めた。
「ま、まあアイラ、ジャックも悪気があってやってる訳じゃないみたいだし…そんなに
硬い事言わなくても楽で良いじゃねえか」
「これは、わたしとジャックの問題だ。エースは黙ってろ」
ぴしゃりとアイラにやられてエースは黙った。
実はジャックは少しだけ困っていた。(大変分かりにくかったが)
どうやら自分がアイラを怒らせてしまったようなので。
別にジャックだってアイラの戦士としての実力を侮っていた訳じゃない。
ただ、紋章の力を行使しようとするアイラの集中を、敵が邪魔するのが気に食わない、
それだけ。
ジャックはそういう時のアイラの姿は殊更気に入っていたので。
もちろん自分だって致命傷になるような傷は負わないように、尚かつ集中している
彼女に掛かる火の粉を払っていただけのつもりだった。
それが…。
「アイラには侮辱になるのか?」
「なる」
そう言うアイラの表情は真剣そのものだ。
ジャックもじっと翡翠の瞳を見つめ返す。
しばらくジャックは考えこんでいたが、ぽつりと呟いて頭を下げた。
「それは悪かった。これからは気を付ける」
「え……え?」
ジャックはそのまま顔を上げない。
アイラは予期せぬ光景に目を白黒させている。
「ジャ・ジャック?」
「気分を害して悪かった」
「う、うん」
「アイラは立派な戦士なのに」
「っ分かってくれれば良いよ。だからもう顔を上げてってば」
さっきまであれほど怒っていたアイラが、今はおろおろしてジャックの顔を上げさせ
ようとして必死になっている。
謝罪を受け入れてどうやら怒りの方は治ってしまったらしい。
「気を付ける、ねえ…」
(あんな事言ってるが結局ジャックの奴アイラを庇うのはやめねえだろうな)
確信するエースは、そんな二人を見てまた溜め息を一つこぼしたのだった。
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| 2003.10.01 |
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