記念日     

記念日




生い茂った緑の草に腰をおろして二人並んで座った。
太陽の匂いと土の匂い。そんな匂いが混じりあうのが俺は好きだったし、ここの高台から町並みを
眺めるのがお気に入りだった。、お気に入りの匂い、お気に入りの場所。

知らなかった街に段々とそんなものが増えてゆく、楽しい時期。
と、それまで取り留めのない話をしていたあいつが急に真顔で聞いてきた。

「そう言えば、テッドって誕生日いつ?」
「誕生日?」
「そう、テッドの生まれた大事な日だよ。聞いた事なかったよね」
「〜なんだよ、急に」
「だって知り合ってから結構経つのにさ」

親友の、そんな大事なことも知らないなんて。
それが気に入らないらしくて、ずっと気になっていたらしい。
恨めし気な視線をこちらに向けて、不満そうだ。

「ああ、そうか。お前はもうじき誕生日だったもんな。安心しろ。
 大した物は、やれないけどプレゼントはちゃんとやるからさ」
「そういう意味で言ったんじゃないってば!」
「え?プレゼント要らないのか?そうか、なら…」
「要る!要るって!!テッドがくれるものなら何だって大事にするよ!」

慌てて居ずまいを正して力説するエンの様子は、俺にとっては微笑ましいものだった。

「お前、そういう所は正直になったよ。本当」

前は大分ネコ冠ってたもんな。
いつも周りにもそんな表情してたら、お前に騙されてる周りの大人達の印象も変わるだろうになあ。
うんうん。可愛い可愛い。

「で、テッドの誕生日は?!」

完全に目が「どうしても知りたい」モードに入ってしまっていた。
まあ、あんなんじゃ流石にはぐらかされないか。
自分がこうと決めたら聞かないんだから。
聞いてどうするつもりなんだ?

「…聞いてどうするんだ」
「どうもしないけど、知りたい」

どうもしないんだったら、知ってても知らなくても同じだろう。何かする気だな。

「…覚えてない」

「は?!」
「だから覚えてないの。」
「嘘。なんでそんな大事な日を本人が知らないんだよ」
「色々あっちこっちさまよってる内に忘れちまった。教えてくれる人もなかったし」

半分は真実で、半分は嘘。

誕生日。

俺がこの世に生を受けた日。
もう何十年も前にそんな事は記憶から抜け落ちてしまっていた。

だって覚えててどうなる?
毎年毎年その日になると年齢だけが着実にじいさんになっていくのに、身体は置いてきぼりなんて。
やっきになって何十年かは覚えてたような気もするけど。
辛うじて生まれた辺の年は覚えているけど、それだってあの事件の日から逆算すれば、とした上での事だし。
エンはしまったという顔してうつむいてる。

「別に、俺はなんとも思ってないんだから、覚えてなくても構わないんだよ。子供じゃあるまいし」
「…ごめん。僕、嫌な話聞いた」
「俺は嫌じゃないけど、聞いて面白くはなかったろ?」
「……面白くないとか…そんなんじゃ…」
「気にするなよ」

俺から視線を外して、居心地悪そうに何ごとか考えていた様子のエンがいきなり大声で叫んだ。

「そうだ!!!」

ぱ、と顔を上げて、目をきらきらさせて提案。

「じゃあさ、テッドの誕生日、改めて決めようよ」


まるまる10秒は開いた口が塞がらなかった。

「決める?誕生日を??後から決めるのか??」
「だって…誕生日を覚えてないなんて、やっぱり寂しいよ。僕は誕生日をテッドや皆に毎年祝ってもらい
 たいし、毎年お祝いしたい」
「………」
「テッド、ちょっと顔赤いよ?熱でもあるんじゃ…」

そういう事を真顔で正面切って口に出して、なんでお前は平気なんだ…恥ずかしくないのか?!

…ないんだろうな。
気にせず話はさらに続く。

「別に誕生日が嫌なら記念日でも良いんだよ。
 あ、テッドがこの街に来た日なんかどう?2月の…2日だったっけ?」
「お前、よく覚えてるな」
「あの日はね。雪が降ってて。雪好きだから、前から楽しみにしてたんだよ。
 そうしたら父さんがテッドを連れて帰ってきて。」
「…そういえばそうだったなあ」

寒くて、ひもじくて、森でうずくまってた俺にテオ様が声をかけてくれて。
付いていく事になって。この街にやって来てエンやあの家の皆に会って。
色々な事があって、季節も変わって、今の俺達がいる。

「よし、決定!そうしよう。テッドが家に来た記念日で2月2日!ね?」

ぱんと手を鳴らして向き直ったエンの顔には満面の笑みがたたえられていた。
記念日なんて痒くなりそうな事も、盛り上がってるエンを見てると、それもまんざらでもないかなんて
思えてくるから不思議だ。

「良いよね?」

くるり、と目を輝かせて尋ねるその顔はまるで誉めてほしくてたまらない子供の顔。
結局俺も弱いんだ。こういう子供っぽいお願いに。

「まあ、良いか、そんなのも」
「毎年皆でお祝いしようね。御馳走作ってもらって。」
「…………ああ」


半ば強引にではあったけど、これから俺は暫くの間、お気に入りの街でお気に入りの連中に囲まれながら
記念日をお祝いされなくてはいけなくなったらしい。


幸せだけど。


少しだけ胸の奥がつんとなった。




2001.02.02
裏開通記念SS(笑)テッドがグレッグミンスターの街に馴染みはじめた頃のお話。今回は意識的にちょいと軽めにしてみたり。こういう書き方の方がどうやら早く書けるみたいです。これは後々書きたいと思っている話への序章の序章なのでした。ああ、文才が欲しい…(苦笑)
 

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